ヤマシタトモコはBLを書こうとはしていない――『イルミナシオン』 ヤマシタトモコ 著
イルミナシオン (mellow mellow COMICS)
- 作者: ヤマシタトモコ
- 出版社/メーカー: 宙出版
- 発売日: 2008/08/27
- メディア: コミック
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はっきりとした受けも、攻めも存在せず、恋愛関係も通常のBLのようにシンプルな構造式で持っていく話ではない。表題作とラストのデビュー作はやっているが、それ以外はやっていないし、女子が主人公の話まである。変化球といえば、変化球だが、それ以上にBLの臭いがしない作品が数多い。
なぜだろうと思ったら、あとがきに答えがあった。少々長い引用になってしまったことを失礼する。
いまももちろん自分の萌えるものを書いてはいるのだが、この頃はいろんな
組み合わせを試みようともしていない。BLは少女マンガなんだ、ということに
気がついてからは少女マンガの文法で描くように心がけてはいるのだが、
(実践できているかは別として心がけている)
この頃は思いっきり青年マンガの文法で描いている。
ヤマシタトモコが書くとおり、多くのBLは少女マンガの文法を基礎にしている。だからこそ、通常のBLでは女子が出てこない。なぜならば読者の視点は(受け攻めどちらかの)男子が代弁しており、女子が存在する必要がないからだ。これは同じく百合にもいえる。同じように百合には男子が出てこない。これは秘密の花園だからでもなんでもなく、出てくる必要がないからだ*1。
ヤマシタトモコはその原則をぶち破る。前作の『恋の心に黒い羽』でも姉が主人公の作品を出し、今作でも女子が主人公の作品を発表している。直球の恋愛ものは描かず、BLとしては完全な変化球どころか、ボークの作品までを描いている。
その理由はヤマシタトモコ自身が書いている通り、作品の地盤が少女マンガではなく、青年マンガにあるから。だから、BLとしてホモを描いていても、単純な恋愛関係に至らず、それ以外の関係まで描くことができる。ヤマシタトモコの底の深さは読んだ人ならば、言及する必要はないだろう。
これだけの多様性と底の深さはよしながふみを思い起こされる。よしながふみのBLもBLではありながらも、BLの枠に囚われない底の深さを感じさせる。ちなみに「きのう、何食べた?」や「大奥」をBLにしようとする猛者もいるようだが、きちんとBLを読んでいればその枠にはあてはまりにくいことがわかる。
結局、私もこの作品はBLとして読んでいない。ケツの穴にズゴバコなんて素振りを微塵もみせない高潔なキャラクタたちをみて、私は思うのだ。早く一般に移って、おもすれー作品を書きまくればいいのに、と。
*1:余談だが、男子が出てきても成立することはKUJIRAの『GIRL×GIRL×BOY』で証明されている。ちなみにこの作品は少女マンガの文法で描かれています。