稀代のストーリーテラー、現る。――『ファンタズム』 雨隠ギド 著

ファンタズム (ウィングス・コミックス)

ファンタズム (ウィングス・コミックス)

 傑作。ナツ100に間に合ったら、絶対に入れていた。滅茶苦茶悔しいし、次点としていれたいくらいの作品。
 主人公は人の悪意が影や化け物のようにみえる女の子。その女の子が人の悪意を食らうからすと出会い、人の悪意の根源とからすの正体に立ち向かっていく物語。
 主人公は悪意がみえたり、からすと対峙することで割とシリアスなテーマ扱いがちなのだが、兄や探偵事務所の面々がコミカルなので極端に暗い話になることはなく、読みやすくなっている。逆にどシリアスなものを扱っているのにテンション高めな場面も。
 主人公にしても、からすにしても、悪意の描きかたが上手い。単純に悪意だけを描くんじゃなくて、その奥深さ描いたり、逆に悪意にみえるけれども悪意じゃないものを描く。悪意なのに悪意じゃないものや、悪意じゃないけど悪意になるかもしれないものを描くあたり、かなり練られている。しかも、それをここまでさらりと書く手腕が物凄い。
 主人公を幼めにすることで、兄や探偵事務所の面々と考えかたの対比を持たせたり、問題とのつきあいかたにしても、あの年齢だからこそ立ち向かえる。その辺りの設定も上手いよなぁ。ラストのからすとの決着のつけかたも見事だし。
 このどこまでもシンプルに描ける題材を、あえて複雑な設定に持ち込んで、そしてきちんとラストはシンプルに着地する。これは凄い才能だよ。帯の「期待のストーリーテラー」の文字に偽りなし、それどころか「稀代のストーリーテラー」に書き換えたいくらいの傑作。是非とも、読破を!
 
追記:amazon.co.jpさんが仕事してくれたので、画像変更。遅いぜ!